インタビュー

半谷吾郎先生インタビュー:Vol.3『温帯の森林と霊長類』

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国宝・犬山城のある愛知県犬山市。ここには、日本で唯一、霊長類を総合的に研究する京都大学霊長類研究所があります。今回は、この研究所で、森林が霊長類に与える影響をテーマとして研究されている、半谷吾郎准教授に話を伺いました。

半谷先生はヤクザル調査隊の事務局長でもあり、1993年以来毎年、屋久島ニホンザルを調査されています。そして2006年から2008年にかけての2年半はボルネオ島でも、そこに生息する霊長類を調査・研究されています。そんな半谷先生に、温帯と熱帯の森林とそこに棲む霊長類についてはもちろんのこと、サルを研究する理由など先生自身に関することや、減りゆく熱帯の森林に関することなどについてもお聞きしました。全4回でお送りします。

前回のvol.2では、熱帯、特に先生が調査されたボルネオが位置する東南アジアの森林と、そこに生息する霊長類について伺いましたが、今回は『温帯の森林と霊長類』と題して、先生が長らく研究されている温帯の森林、そしてそこに棲む霊長類について伺いました。

熱帯の地域に行ったことある方は漠然とイメージできるかもしれませんが、温帯と熱帯、それぞれの森林は果たしてどう違うのでしょう。そして温帯の森林にはどのような霊長類が生息しているのでしょう。

――今度は温帯について伺いたいのですが、ニホンザルも生息する温帯の森林には、熱帯の森林と比べてどのような特徴があるのでしょうか。

温帯の方が大体において寒いけれども、熱帯にも山地があることから寒い熱帯も存在する。つまり、寒いかどうかは本質的な違いではありません。

本質的な違いは、温帯で起こる季節変化は、究極的には気温と日長の変動で引き起こされるものであり、熱帯は雨量の変化であるということです。日長は太陽の動きで決まるので、365日全く同じ周期で変動します。一方、雨量は偏西風や気温変化など二次的なメカニズムで決まるので、変化が一貫しません。例えば、マレーシアの人に今の季節は何かと聞くと、雨季だとか乾季だとか言ってくれるんですが、よくよくそれを聞いてみると、ここひと月くらい雨が降っていないとか降っているとかを意味しているんですよね。なので、カレンダーでいう7月は雨季だとか12月は乾季だとかいうわけではない。あるいは、年によって雨季と乾季がはっきりしているけれど、それがひと月くらい平気でずれたりする。これが熱帯です。

だから、季節変化が非常に規則正しい温帯では、生物の様々な季節的現象も規則正しく見られます。例えば、展葉は必ず春に起こる。非常に予測可能です。一方、ボルネオの例は極端ですが、熱帯では3月になったら結実するよねといったことは温帯ほどはあてになりません。

それと、同じ温帯の日本とポルトガルで、春夏秋冬の変化が起こるタイミングは同じですが、熱帯のウガンダとコンゴで同じかというと、その保証はできません。例えば、ウガンダのとある場所は雨季に沢山実がなる。しかしコンゴのとある場所では乾季に実がなる。こういうことがあり得るのです。温帯だと、この場所だとこうしたらいいというのは比較的予想しやすく、ニホンザルやクマのように、秋になったら果実を脂肪として体内に溜めこむ戦略が通用します。ところが熱帯ではそれが通用しない。1つの種の分布域の中に、雨季に果実がなる所もあれば乾季になる所もあるわけだから、動物はそれぞれの場所ごとで生きていかなければなりません。つまり、温帯と熱帯には、環境の予測可能性、そして年によって共通しているかということや場所によって同じことが起こるのか、こういう意味において違いがあります。

 

――温帯と熱帯の森林の本質的な違いを今伺いましたが、そこに生息する霊長類にも本質的な違いあるのでしょうか。

それはまだ「○○だ!」といえる状態ではありません。ただ、僕が注目しているのは脂肪蓄積です。先ほども言った通り、温帯では厳しい時期の終わりが見えている、つまり貯金を食い尽くしても必ず次に収入があることが分かっているので、脂肪蓄積は有効な戦略です。けれども熱帯ではそうはいかない。なので、温帯のサルは皆すべからく脂肪蓄積を行い、熱帯はそうではないと予測をしています。しかし、これを調べるのは大変なんですよね。脂肪をどう蓄積しているのか調べるためには、サルを捕まえて殺して解剖しないと分かりませんし、少なくとも定期的に体重を測らないといけない。ニホンザルだとこういうデータはありますが、外国のサルは中々ないですね。

 

――霊長類にとって温帯と熱帯ではどちらが厳しいのでしょうか?

温帯ですね。なので温帯に進出できているサルは少ないです。基本的にサルは熱帯の生き物ですから、温帯に進出できるのは一部のサルに限られますね。

 

――ニホンザルは温帯に進出した数少ないサルですが、温帯に適応するにはどのような特徴が必要なのでしょうか?

まずは寒さに適応するための毛が必要ですね。温帯には必ず寒い冬があるので、寒さに対する適応は必要です。あとは、予測可能だけれども季節変化は温帯の方が激しい、つまり夏と冬の落差が激しいので、色々なものを食べる能力が必要です。ニホンザルは秋と冬では食べるものが全く違いますが、こういう違うものを食べる能力は温帯では必要になると思います。

予測可能性だけで言えば、禍福は糾える縄の如し。苦しい時期の後には必ずえさが豊富な時期がやってくるので、温帯の方が過ごしやすいように思えます。また、寒さという点では、熱帯にも山地があるので、温帯レベルに寒い環境は存在します。ゲラダヒヒは平均気温が5℃の寒冷なエチオピアの高原に生息します。

しかし、温帯では季節による気温の変化が激しく、それに合わせて周りの環境も変わります。例えば、ニホンザルの北限である青森県の年平均気温は約10℃ですが、最高気温は30℃近くにもなり、最低気温は氷点下まで下がります。このことを考えれば、1年を通して気温があまり変わらない熱帯の生き物であるサルにとって、温帯は厳しい環境なのもうなずけます。実際、先ほど出てきたように、温帯に進出したサルは少なく、ニホンザル、バーバリーマカク、キンシコウ、ゴールデンラングールくらいです。季節変化の激しい環境に適応し、生き延びるのは至難の業なのですね。

さて、いかがでしたでしょうか。熱帯の森林に生きるサルと温帯のサル。太るオランウータンに、温泉に入るニホンザル。それぞれがそれぞれの環境でなんとか生きていく様子が思い浮かべられたと思います。

次回は最終回。世界ではどんどん森林が縮小していますが、実際に野生の森林に入り研究してきた先生の目には、それはどのように映っているのでしょうか。最後には先生オススメの本も紹介しています。

半谷吾郎(はんや ごろう)

1975年、愛知県生まれ。京都大学霊長類研究所准教授。ヤクザル調査隊事務局長。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。屋久島のニホンザルの研究で日本生態学会Ecological Research賞、日本霊長類学会高島賞などの受賞歴あり。分担執筆した本に『ニホンザルの自然社会』(京都大学学術出版会)、『ニホンザルの自然誌』(東海大学出版会)、『新しい霊長類学』(講談社)など、鳥類研究者の松原始との共著に『サルと屋久島』(旅するミシン店)がある。

HP

http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/shakai-seitai/ecolcons/hanya/index.html

ヤクザル調査隊HP

http://yakuzaru.php.xdomain.jp/

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