参考書籍

『「サル化」する人間社会』

「サル化」する人間社会

書籍情報

書名:「サル化」する人間社会
著者:山極寿一
発行年:2014年
価格:1100円(+税)
ページ数:173ページ

「サル化」する人間社会?

「サル化」とは何か。

まずはサルの社会について押さえておきましょう。

サル社会は、個体の利益が優先する、序列的な社会だと言うことができます。

サルの社会では、個体の利益が優先されます。

個体の利益とは「なるべく栄養価の高いものを食べること」と「安全であること」です(頁158)。

これらを優先させるとき、上下関係というルールがある社会は非常に効率的です。

平等な社会を作って食べ物をめぐって争うより、あらかじめ序列がある方が、劣位のものでもえさにありつけないわけではないし、集団を作ることで敵から身を守ることができるからです。

つまり、サルの社会は、個体の利益が追及された結果生まれたものだと言うことができます

そのため、サルは一度離れた集団に対して愛着を持ちません。

自分の利益を追求できない社会に執着することはないのです。

 

著者は、このようなサル社会に人間社会が近づいてきているのではないかと主張します。

これが本書の題名の意味するところです。

 

ここで重要なキーワードが「家族」です。

というのも、筆者は人間の人間たるゆえんがこの家族にあると考えているからです。

筆者は家族を「食事をともにするものたち(頁156)」と定義します。

詳細は本書に任せますが、この食事を共にする家族の存在によって、人間は共感能力を高め、同情を生み、相手に何かしてあげたいという向社会的行動をとるようになりました。

 

こうして生まれた人間社会には「見返りのない奉仕」、「互酬性(もらったら返す)」、「帰属意識」という3つの普遍的な性質があると筆者は考えます

そして、このような性質を持つ人間社会が、今揺らぎ、サル化しつつあると筆者は言います

その原因は、人間社会を作り上げた家族、その崩壊にあります。

つまり、一人一人が好きなものを食べられるようになり、家族の持つ「供食」という習性が「個食」に取って代わられているということです。

人間が家族に固執せず、個人主義がさらに蔓延すれば、人間社会は序列的なサル社会にさらに近づくことになるでしょう。

筆者はこの状況を楽観視できないと言います。

 

ところで、この本ではゴリラが表紙になっています。

なぜなのでしょう。

 

著者は世界的に有名なゴリラ研究者です。

彼が何十年もかけて観察してきたゴリラは、上記のようなサル社会を持ちません

代わりに序列がなく、勝ち負けという概念を持たない社会を作ります。

誰も負けず、誰も勝たない社会、つまり平和主義的、平等主義的社会をゴリラは持っているのです。

このようなゴリラ的価値観は、人間にも備わっていたと著者は言います。

今、人間はこのようなゴリラ的価値観を失い、サル社会に近づきつつある。

そんな現代社会を著者は憂います。

誰も負けない社会は生きやすいけれど、負けないために勝者にならないといけない世の中は生きにくい。

現代社会は勝者をたたえる社会になってしまいました。

 

ゴリラが表紙になっている理由、それは人間が持つべき価値観をゴリラが持っているからではないでしょうか。

長くなりましたが、本書は、ゴリラを通じて現代の人間社会を考えさせてくれる、そのような本になっています

読みやすく面白い

この本の特徴はなんと言ってもその読みやすさ。

語り口は柔らかく、ですます調で書かれています。

また、文章も平易で、内容が濃いにも関わらず非常に分かりやすくなっています。

著者である山極氏は数々の本を出していますが、その中でもこの本は多くの人に向けて書かれたものだと思います。

実際、本書は版を重ね、私が手にしている者は第6刷です。

 

今まで人類やゴリラについて勉強したことがない人たちにとっても分かりやすい本書ですが、その内容は決して浅いものではありません。

第2章「ゴリラの魅力」第3章「ゴリラと同性愛」第5章「なぜゴリラは歌うのか」、題を見ただけで読んでみたくなるようなこれらの章では、ゴリラの面白い生態や特徴を余すところなく知ることができます。

他の章ではゴリラを参照しつつ、人類の歴史に迫っていきます。

本書のキーワードである家族の起源や、肉食、脳の大きさ、言語の関係などなど、分かりやすくも考えさせる内容になっています。

特に、筆者が言語の起源が○○○にあると述べているのは興味深いです

○○○に入る言葉は、是非本書を自分の手に取って答え合わせしてみてください。

 

人類とゴリラ。

今まで勉強したことがなかったとしても、これらに少しでも興味がある方は是非一読ください。

きっとこの本が、人類と霊長類という分野への門となってくれることでしょう。

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