参考書籍

『新世界ザル〈上〉〈下〉』

新世界ザル

書籍情報

書名:新世界ザル アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う
著者:伊沢紘生(京都大学大学院理学研究科博士課程修了、理学博士、宮城教育大学名誉教授、NPO法人ニホンザルフィールドステーション理事長、NGO宮城のサル調査会会長)
発行年:2014年
価格:〈上〉3800円(+税)〈下〉4200円(+税)
ページ数:913ページ

目次:
序章 絢爛たる樹上の世界―ある朝の風景
第1章 アマゾンでの調査30年―新世界ザルを追って
第2章 樹海に轟く咆哮―ホエザルを追って
第3章 ずば抜けた賢さ―フサオマキザルを追って
第4章 林冠を風の如くに―クモザルを追って
第5章 きたない森の小さな忍者―ゲルディモンキーを追って
第6章 浸水林に生きる―サキとウアカリを追って
第7章 小鳥の囀りにも似て―セマダラタマリンを追って
第8章 樹林の月夜と闇夜―ヨザルを追って
第9章 絡みつく蔦の中で―ダスキーティティを追って
終章  きれいな森ときたない森―新世界ザルのすみわけと進化 

探検記であり観察記録であり

新世界ザルとは、中南米に生息するサルを指します。

本書はその新世界ザルをタイトルにしていますが、その名に反することなく、あらゆる新世界ザルを取り上げています。

ホエザル、クモザル、ウーリーモンキー、ゲルディモンキー、サキ、ウアカリ、タマリン、マーモセット、ヨザル、ティティ。

新世界に生息するほとんどすべてサルのの観察記録が詰まった他に類を見ない本、それがこの『新世界ザル』です。

 

著者は1939年生まれの世界的霊長類学者、伊沢紘生

半世紀近くにわたって新世界ザルを研究する途轍もなくパワフルな研究者です。

観察記録は1970年代から始まり、2000年代にまで及びます。

その間、想像を超えるほど苛酷なアマゾンで調査していたことを考えると唖然とします。

 

本書は、あらゆるサルの観察記録としてだけでなく、アマゾンの探検記としても読めます。

サルだけでなくカピバラやペッカリー、オセロットなどの哺乳類からカエル、トンボ、キノコまでアマゾンの多様性をこれでもかと見せつけられます。

そして、「きれいな森」、「きたない森」などといった様々なタイプの森林や地形、川など生き物を取り巻く環境も圧巻です。

当然これらは全体の一部でしかないのでしょうが、それでも日本からかけ離れた所にこれほどの生き物たちが暮しているという事実をそこで暮らした人から知らされると、わくわくが止まりません。

この本を読めば、きっと皆さんも一度はアマゾンに行ってみたくなることでしょう。

アカホエザル
アカホエザル声を大きくする共鳴袋、しっぽのグリップを強める尾紋。そんな特徴を持つこのサルには子殺しが見られます。...
ケナガクモザル
ケナガクモザル彼らの生態の他、色事についても紹介しています。オスとメス、どっちが恋に積極的なのでしょう。...
ゲルディモンキー
ゲルディモンキーこのサルの移動方法は独特です。それは二足歩行でも四足歩行でもブラキエーションでもなく……....
モンクサキ
モンクサキモンクサキのモンクは文句ではありません。むしろその対極にありそうなものが語源です。...
アカウアカリ
アカウアカリアカウアカリは南米に住むサル。酔っ払ったおじさんみたいな顔をしていますが、れっきとしたサルです。...
クチヒゲタマリン
クチヒゲタマリン彼らの生態の他、このサルに見られる悲しい子殺しと、ヘルパーという存在の関係についても説明しています。...
ピグミーマーモセット
ピグミーマーモセット世界最小の真猿類、ピグミーマーモセット。真猿類とは?どんな生態?このような質問にお答えします。...
アザラヨザル
アザラヨザル真猿類で唯一の夜行性、ヨザル。彼らの生態や、夜行性の多い原猿類との違いなどについても解説しています。...
ダスキーティティ
ダスキーティティ人間のような家族を作るティティは、面白い方法でなわばりを守ります。動画でもその様子を紹介しています。...

「すみわけ」と「種の誇り」

著者は、長年のフィールドワークから「すみわけ」が生物の進化に決定的であったという結論を導き出します。

「すみわけ」とは場所や食べものを同じにしないことを意味し、ニッチ(生態的位置)を共有しないことと同義であると捉えていいと思います。

…進化(種分化)に通底するすみわけとは、今の世にまかり通る競争原理に基づいた、生存にほんの少しだけ有利で繁殖にもわずかに有利なように突然変異した遺伝子ひとつひとつの、気の遠くなるような自然淘汰の積み重ねや、利己的遺伝子の損得勘定によるごく漸次的な変化の集積によるものではない。(中略)すみわけは、そうする種を取り巻く自然環境の多様化、すなわち熱帯雨林の状態や食物の種類などの多様化の中で、種の独自性とか主体性、もっといえば種の意志とも呼べる、種を新たに誕生させる決定的な出来事であり、主として一度きりの歴史的な変化であり、生物の種は、時期が満ちればすみわけるのである。(p880)

このように、進化の過程において「すみわけ」に注目することで、突然変異や自然選択のような理論では説明できない「種の誇り」、そして新世界ザルの多様な「生きざま」を理解できると著者は言います

例えば、ホエザルはたとえ採食や休息の時間を削ってでも、時に1日以上隣接群と咆哮しあうことがあります。

また、クモザルはホエザルのようにしっぽを移動以外に使うことなく、親指のない手で樹上を素早く移動します。

筆者に言わせれば、新世界ザルはそれぞれこのような「種の誇り」とも言うべき特徴、そしてどこに暮らす、何を食べる、いつ活動するなどそれぞれの「生きざま」を持っており、これらを自然選択のような「損得勘定」だけで説明できる、ないしそれでしか説明できないとするのは「個々の生物の生きざまを冒涜」しているのと同じです

生きものを自分の目で見てきた著者にとって、すべての生きものは「崇高な存在」です。

このような存在を机上の理論だけで理解できるはずがない、このような気概を本書からは感じることができます。

 

学者と言うと研究室の中での姿を想像してしまいますが、著者はその対極にいる学者です。

長年アマゾンとそこに住むサルを見てきた人によって記された、何か温かみを感じる本書、是非読んでみてください。

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