ヒト科

スマトラオランウータン

スマトラオランウータン
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オランウータン 森の哲人は子育ての達人 /東京大学出版会/久世濃子
『オランウータン 森の哲人は子育ての達人』数少ないオランウータンの研究者による、数少ないオランウータンの専門書。その面白さを紹介します。...

スマトラオランウータンの基本情報

スマトラオランウータン

英名:Sumatran Orangutan
学名:Pongo abelii
分類:ヒト科 オランウータン属
生息地:インドネシア・スマトラ島
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉

スマトラオランウータンPhoto credit: Kip Kee

フランジ

オランウータンというと、オスのあの大きな顔が思い出されます。

あの顔のひだはフランジと呼ばれ、オスだけに現れます。

しかし、フランジは全てのオスに現れるわけではなく、優位のオスのみに現れます。

フランジのあるオスはフランジオス、フランジのないオスはアンフランジオスと区別されます。

このように成熟したオスの外見に2つのパターンがあることを、二型成熟と言います。

 

フランジオスは、フランジだけでなく、大きなのど袋やかび臭い匂いを発する臭腺を持ちます。

のど袋はフランジオスがロングコールと呼ばれる音声を発するときに使われます。

ロングコールは数分続き、他の個体に自分の居場所をアピールします。

別のところにいるフランジオスがそれにロングコールで返すこともあります。

 

フランジオス同士が出会うと激しい戦いが始まります。

これはメスをめぐる戦いで、オスはその地域で最強のフランジオスになることで多くの子供を残そうとしていると考えられています。

その一方で、フランジオスはアンフランジオスの存在にはあまり興味がないようです。

 

アンフランジオスは、メス程の大きさからフランジオスの大きさまで様々な大きさをしています。

アンフランジオスの中には、周囲に優位なオスがいなくなるとフランジオスに変身するものがいますが、一生アンフランジオスのままでいるものもいます。

フランジがあるということは自分が優位であることを示すものであり、メスにとっては魅力的です。

それがないということは自分の子供を残すことにおいて不利であると考えられます。

しかし、そんな状況の中でアンフランジオスはフランジオスとは別の繁殖戦略をとります。

 

フランジオスには、メスが自らやってきて親和的な交尾をします。

一方、アンフランジオスはメスをストーカーのように追いかけまわして半ば強制的に交尾をします。

また、アンフランジオスはフランジオス同士のようにケンカをしません。

アンフランジオスはフランジオスを避ける傾向にはありますが、アンフランジオスとは連れ立って行動することすらあります

フランジオスがアンフランジオスを気にかけないのも、繁殖において彼らが同じフィールドにいないからなのかもしれません。

スマトラオランウータンPhoto credit: cuatrol77

オランウータンの文化

単独で行動するオランウータンにも、ゴリラやチンパンジーのように文化はあると言われています。

文化的行動として、スマトラオランウータンでは、複数の道具使用例が報告されています。

チンパンジーなどのように、小枝を使ってはちみつや種などを取り出すのです。

 

警戒や不快感を示すキス鳴き(kiss-squeak)という音を発する行動も、文化的行動である可能性があります。

この行動は地域によって異なり、葉っぱを口元に当ててキス鳴きをし、その後ばらまくものや、口に手を当てるもの、何もしないものなど様々です。

下の動画ではまさにその様子を見ることができます。

約8分半あたりで、異なる地域に住むオランウータンが、様々なキス鳴きを見せています。

スマトラオランウータンの生態

スマトラオランウータンは、スマトラ島の熱帯雨林に生息します。

 

スマトラ島にはスマトラトラという捕食者がいるので、スマトラオランウータンは、オスは時々地上に下りてくることがあるものの、基本的には樹上で生活します

睡眠も木の上にネストを作ってそこで行われます。

オランウータンは世界最大の樹上生活者です。

オランウータンとはマレー語で「森の人」という意味ですが、まさにですね。

 

主食は果実で、年間を通じて食物の8割を占めます。

また、ボルネオオランウータンと比べると、アリやシロアリなどの昆虫はちみつをよく食べ、その際に道具使用が観察されています。

 

体長は1.3~1.8m、体重は30~90㎏で、オスはメスの倍の体重になります

 

オランウータンは単独生活者として知られていますが、スマトラオランウータンは複数で行動することがあります

これは、ボルネオ島と比べてスマトラ島は一斉結実の影響が小さく、1年を通じて比較的安定した果実摂取が可能であるからと言われています。

複数で行動するということはそれだけ文化が伝播しやすいということであり、それがスマトラオランウータンの道具使用などの文化的行動につながっていると考えられます。

 

オランウータンの社会は非父系社会で、オスは生まれた場所から遠く離れます。

その遊動域は人が追えないほど広く、そのためにオランウータンのオスのライフヒストリーについては未だによく分かっていません。

その一方、メスの遊動域は狭く、生まれた場所の近くに確立されます。

 

スマトラオランウータンの繁殖は、12月~5月の雨季に行われます。

メスの初産年齢は約15歳で、約8カ月の妊娠期間を終えて1匹の赤ちゃんを産みます。

生まれた赤ちゃんは約4年で離乳し8~9歳まで母親と共に暮らします。

出産間隔は約7.5年と非常に長いです。

以前は、ボルネオオランウータンの出産間隔の方がスマトラオランウータンのそれよりも短いと言われ、それは、ボルネオはスマトラよりも果実が少ないため、ボルネオオランウータンは子供をたくさん産むことでより子孫を確実に残そうとしているからと考えられていましたが、今ではほとんど変わらないとされています。

ボルネオオランウータン
ボルネオオランウータンボルネオオランウータンが持つ生存のためのメタボ体質や文化をはじめ、彼らの生態を詳しく紹介します。...

オランウータンの繁殖は、陸生哺乳類のうち1番繁殖が遅いと言われています。

しかし繁殖がゆっくりしている分、彼らは長生き(飼育下では60年近く生きたものも)で、死亡率も極めて低いと考えられています。

スマトラオランウータンに会える動物園

スマトラオランウータンは、プランテーションのための農地開拓、違法なペット取引などのために、個体数を減少させています

レッドリストでは最も絶滅が危惧される絶滅危惧ⅠA類に指定されており、生存数は約1万5千頭と言われています

 

そんなスマトラオランウータンですが、日本の動物園でも会うことができます。

千葉県の市川市動植物園、静岡県の浜松市動物園、愛知県ののんほいパーク東山動物園、愛媛県のとべ動物園がスマトラオランウータンを飼育しています。

とべ動物園にはボルネオオランウータンも飼育されているので、是非その顔、生態を見比べてみてください。